社内の管理画面を見たら、見覚えのないアプリがいくつも動いていた。作った社員に聞くと「AIで試しに作ったもの」。使われていなさそうだけれど、止めていいのかどうか判断できない。AIで業務アプリを作る人が増えた会社では、いま起きやすい悩みです。
「社員がAIで作ったアプリが管理画面で見つかりました。使われていないものを勝手に廃止していいのか、誰が決めるのか分かりません」
先に結論をお伝えします。「使われていなさそう」という印象だけで止めるのはおすすめしません。ただし、確認の手順を決めれば、安全に整理できます。 ポイントは、いきなり削除せず「見つける → 持ち主を探す → 使われ方を確かめる → 一度止めて様子を見る → 保管して削除する」の順に進めることです。廃止を決める人(決裁者)を先に1人決めておくと、迷いが大きく減ります。
この記事では、AIで作られた社内アプリを整理するときの考え方と、止める前の6ステップ、そのまま使えるチェックリストと開発会社への質問例を解説します。
「使われていなさそう」で止めるのが危ない3つの理由
理由1:月に一度、年に一度しか使わないアプリがある
アクセスが少ない=不要、とは限りません。月末の締め処理、年1回の棚卸し、決算時の集計など、使う頻度が低いだけで業務には欠かせないアプリは珍しくありません。直近1か月の利用記録だけで判断すると、次の繁忙期に困ります。
理由2:ほかの仕組みがそのアプリに依存していることがある
アプリが出力したファイルを別の担当者がExcelで加工している、別のシステムがそのアプリのデータを読みに来ている、といったつながりは、作った本人しか知らないことがあります。アプリを止めると、見えないところで別の業務が止まることがあります。
理由3:データを保管する義務や、消せない情報が入っている場合がある
アプリの中に、取引先の情報、従業員の情報、帳簿に関わるデータが入っていることがあります。削除すると、保存しておくべき記録まで失う可能性があります。個人情報や契約書類の扱いは、会社のルールや法令で保管期間が決まっていることがあるため、個別の判断は社内の管理部門や専門家に確認してください。
アプリを止める前の6ステップ
ステップ1:まず「全体の一覧」を作る
整理の第一歩は、どんなアプリがいくつあるかを把握することです。IPA(情報処理推進機構)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」でも、守る対象を把握するために、会社が持つ情報資産(=データやシステムなど、会社にとって価値のあるもの)を台帳に書き出すことが勧められています。2026年3月27日に公表された第4.0版には、付録6として「資産管理台帳(サンプル)」(Excel形式)も用意されています(執筆時点:2026年10月)。
📰 出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」
AIで作られたアプリは、この台帳から漏れやすいものです。次の項目だけでも書き出してみてください。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| アプリの名前・URL | 経費集計ツール、など |
| 作った人・今の持ち主 | 作成者の部署と氏名(異動・退職していないか) |
| 使っている人・部署 | 営業部の5人、など |
| 動いている場所 | 会社のサーバー、クラウド、個人のアカウント |
| 入っているデータ | 個人情報の有無、取引先情報の有無 |
| 最後に使われた日 | 利用記録で確認できる範囲 |
動いている場所が個人のアカウントやパソコンだった場合は、先に会社の管理に移す必要があります。その手順は次の記事で解説しています。


ステップ2:持ち主を探して「使っているか」を直接聞く
利用記録(アクセスログ)だけで判断せず、作った本人と、使っていそうな部署に聞くのが確実です。聞き方は責めるのではなく、確認の形にします。
- 「このアプリは今も使っていますか。使うのはどんなときですか」
- 「月に1回や年に1回しか使わない場面はありますか」
- 「このアプリのデータを、ほかの人や仕組みが使っていませんか」
作った社員が異動や退職をしていて持ち主が見つからない場合は、使っていそうな部署の責任者に確認してもらいます。それでも見つからない場合に備えて、ステップ4の「一度止める」が役に立ちます。
ステップ3:廃止を決める人(決裁者)を決める
誰が決めるのか分からないことが、整理が止まる最大の原因です。アプリの利用部門の責任者(持ち主)が「不要」と判断し、情報システム担当(または経営層)が承認する、という2段階にしておくと、判断が偏りません。小さな会社なら、承認者が1人でも構いません。大切なのは、廃止の判断を誰がするのかを、アプリを止める前に決めておくことです。
ステップ4:削除ではなく「一度止めて様子を見る」
不要と判断しても、いきなり削除はしません。まずアクセスできないようにして(停止して)、一定期間様子を見ます。期間の目安は、月次の業務を一巡できる1〜2か月以上が一般的です。年次の業務が絡みそうなら、さらに長く取ることもあります。
この間に「動かなくなった」という連絡が来なければ、そのアプリは本当に使われていなかったと言えます。連絡が来たら、すぐ再開できる状態にしておきます。
ステップ5:データと作り方を保管する
削除の前に、次のものをまとめて保管します。
- アプリのデータ(取引先・個人情報の有無を確認したうえで)
- 指示書やプロンプト(=AIに出した依頼文)、ソースコード
- 動かしていた場所、設定、使っていた外部サービスの情報(APIキーは保管せず、無効化して破棄します)
後から「やっぱり必要だった」となったとき、作り直しの手間が大きく減ります。
ステップ6:削除し、台帳に記録を残す
停止期間を問題なく過ごせたら、削除します。外部サービスの契約やAPIキーも忘れず解約・無効化します。台帳には「いつ・誰の判断で・なぜ廃止したか」を残してください。同じ議論を繰り返さずに済みます。
やりがちな失敗
- 利用記録だけで判断する:利用頻度の低い業務アプリを止めてしまい、月末に混乱する
- 作成者を責める:次から誰も報告しなくなり、見えないアプリがさらに増える
- 削除を先にする:データも作り方も失い、復旧できなくなる
- APIキーを放置する:アプリを止めてもキーが生きたままだと、不正利用や課金の原因になる
- 決裁者がいないまま議論する:「誰が決めるの」で止まり、使われないアプリが残り続ける
開発会社に頼めること
整理を全部社内でやる必要はありません。次のような部分は、開発会社に頼むと早く確実です。
- 動いている場所の調査と、アプリ同士・他システムとのつながりの洗い出し
- 停止しても影響が出ないことの確認と、元に戻す手順の用意
- 残すアプリの品質確認(セキュリティ、保守のしやすさ)と、正式なシステムへの作り直し
- 今後AIで作るアプリの「届け出」と「公開前の確認」の仕組みづくり
AIで作ったアプリを開発会社に引き継ぐ場合の考え方は、次の記事も参考になります。


発注者がやること チェックリスト
- ☐ 社内で動いているAI製アプリの一覧(台帳)を作った
- ☐ アプリごとに「今の持ち主」を決めた(異動・退職者の分も含む)
- ☐ 廃止を決める人と承認する人を決めた
- ☐ 作った本人と利用部門に、使い方を直接確認した
- ☐ 月次・年次でしか使わない業務がないか確認した
- ☐ いきなり削除せず、一定期間の停止から始めた
- ☐ データと作り方(指示書・コード)を保管した
- ☐ APIキーや外部サービスの契約を無効化・解約した
- ☐ 台帳に廃止の理由と日付を記録した
開発会社への質問例
そのまま打ち合わせで使える質問です。
- 「社内で動いているアプリの場所と、ほかのシステムとのつながりを調べていただけますか」
- 「止めても影響が出ないかを確認する方法と、問題があったときにすぐ元に戻す手順を教えてください」
- 「個人情報や取引先情報が入っているアプリは、どう扱うのが安全でしょうか」
- 「残すアプリと廃止するアプリの判断基準を、どんな項目で整理すればよいですか」
- 「今後、社員がAIでアプリを作るとき、公開前に確認する仕組みを作るなら、どのくらいの工数がかかりますか」
まとめ
- 「使われていなさそう」だけで止めない。月次・年次で使うアプリや、別の仕組みとのつながりがある
- 廃止を決める人(利用部門の責任者)と承認する人を、先に決めておく
- 手順は「一覧化 → 持ち主を探す → 確認 → 一度止める → 保管 → 削除」。削除は最後
- 台帳に理由と日付を残し、次回から同じ議論を繰り返さない
AIで誰でもアプリを作れるようになった今、アプリを「作る」ルールと同じくらい「終わらせる」ルールが大切になっています。個別の法令や契約に関わる判断は、社内の管理部門や専門家に確認してください。
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