フリーランスに頼んで作ってもらったシステムを、「別の人に改修してもらいたい」「開発会社に保守を引き継ぎたい」と考えたとき、はじめて「そもそも著作権はどちらにあるのだろう」と気になる方は少なくありません。
「フリーランスに頼んだ開発の著作権がどちらにあるのか分からない。自社で改修したり、他社に引き継いだりしてもいいの?」
先に結論をお伝えします。お金を払って作ってもらっただけでは、著作権は自動的に発注者のものにはなりません。一般的な考え方では、プログラムの著作権は作った人(フリーランス)に生まれ、発注者に移るのは「譲渡する」と契約で決めたときです。ただし、著作権が発注者になくても、契約の内容しだいで改修や引き継ぎができることも多くあります。大切なのは、契約書やチャットのやり取りに「何を、どこまで使ってよいか」がどう書かれているかを確かめることです。
この記事では、システム発注の窓口になる担当者が、著作権で迷ったときに最初に確認したい5つのことを、そのまま使えるチェックリストと質問例とあわせて解説します。なお、著作権は法律の話です。この記事は一般的な考え方の紹介であり、個別の契約の判断は弁護士などの専門家にご相談ください。
システムの著作権は、作った人に生まれるのが原則
まず、著作権(=作ったものを複製したり、改変したり、公開したりできる権利)の基本を押さえておきましょう。
著作権は、手続きをしなくても、作品を創作した時点で自動的に生まれる仕組みです。プログラムも小説や写真などと同じく、著作物の一つとして保護されます。登録は権利を取得するためのものではなく、移転などの事実を公に示すための制度です。
📰 出典:文化庁「著作権登録制度」
つまり、フリーランスが書いたコードの著作権は、一般的には書いた本人に最初から生まれています。「発注して代金を払った」だけでは、権利が自動的に移るわけではありません。法人(会社)に所属する従業員が職務として作った場合は、会社が著作者になる場合もありますが、個人で受けているフリーランスには基本的に当てはまりません。
とはいえ、これは「発注者は何もできない」という意味ではありません。次の項目で見るように、著作権が誰にあるかと、発注者が自由に使えるかどうかは、別の問題です。
「著作権がある」と「使える」は別の話
発注者が実際に知りたいのは、多くの場合、著作権が誰のものかそのものではなく、次のことができるかどうかではないでしょうか。
| やりたいこと | 確認するポイント |
|---|---|
| 納品されたシステムを自社で使い続ける | 契約の目的からして当然に使える前提のことが多い。ただし書面で確認しておくと安心 |
| 自社の担当者や別の人が改修する | 「改変してよい」と読める条項があるか。著作権が譲渡されているか |
| 開発会社に保守・追加開発を引き継ぐ | 第三者にコードを見せ、改修させてよいと書かれているか |
| 別の事業や別の会社にも同じ仕組みを使う | 利用目的や範囲が「自社の本件業務のみ」に限られていないか |
著作権が発注者に譲渡されていなくても、契約で「自社の業務のために利用・改変できる」と決まっていれば、改修や引き継ぎができるケースは多くあります。逆に、著作権が譲渡されていても、フリーランスが持っていた汎用的な部品(ライブラリ)や、第三者のオープンソースの権利は別扱いになることがあります。
契約書の雛形としては、IPA(情報処理推進機構)が公開している「情報システム・モデル取引・契約書」のように、成果物の権利の扱いをあらかじめ決めておく考え方が示されています。
迷ったときに確認したい5つのこと
1. 契約書・発注書・チャットに「権利」の記載があるか
まず、手元の書類とやり取りを探します。確認したい言葉は「著作権」「譲渡」「利用許諾」「成果物」「知的財産権」「帰属」などです。契約書がない場合は、発注時のメールやチャット、見積書の備考欄も確認してください。
契約書がなく口頭とチャットだけで進めていた場合の考え方は、次の記事で扱っています。


2. 「譲渡」なのか「利用を許す」なのか
権利の扱いには、大きく2つの形があります。
- 譲渡:著作権そのものが発注者に移る。以後、発注者は原則として自由に使える
- 利用許諾:著作権はフリーランスに残るが、決められた範囲で使ってよいとされる
譲渡の場合は、書き方にも注意が必要です。著作権法では、契約に「すべての著作権を譲渡する」と書くだけでは、他人の作品をもとに新しい作品(改変したもの)を作る権利などが含まれず、作った人に残ったと推定されるという定めがあります。そのため、実務では「著作権法第27条および第28条の権利を含む」と具体的に書くのが一般的です。
📰 出典:e-Gov法令検索「著作権法」
システムを後から改修したい発注者にとって、この「改変する権利」が含まれているかどうかは、とくに重要です。契約書の文言を確認し、分からなければ専門家に見てもらいましょう。
3. 「著作者人格権」を行使しない約束があるか
著作権とは別に、作者には「著作者人格権」という権利があります。作者の意思に反して内容を勝手に変えられない、といった権利で、譲渡することができません。そのため、契約では「著作者人格権を行使しない」という約束を入れるのが一般的です。
この約束がないまま、第三者が大きくコードを改修したときに、作者から異議を言われる可能性もゼロではありません。揉めごとを避けるためにも、契約書に書かれているか確認しましょう。
4. フリーランス本人以外の権利が混ざっていないか
システムには、フリーランスが書いたコードだけでなく、次のようなものも含まれます。
- フリーランスが以前から持っていた、他案件でも使う共通部品
- オープンソースのライブラリ(それぞれの利用条件に従う必要がある)
- 有料のデザイン素材やフォント、外部サービスのAPI
「著作権を譲渡する」と書いてあっても、これらはフリーランスが自由に譲れない場合があります。納品物に何が含まれるかの一覧が、あるとよいでしょう。
5. 代金の支払いは済んでいるか
権利の移転は、契約で「代金の支払いが完了した時点」と決めていることがよくあります。支払いが残っているのに成果物を使い続けたり、他社に引き継いだりすると、あとで揉める原因になります。支払いの状況と、権利が移る時期の書き方をあわせて確認してください。
作りかけのまま連絡が取れなくなった場合の引き継ぎについては、次の記事も参考になります。


契約に書かれていないとき、どうすればいい?
契約書やチャットを確認しても、権利のことがはっきり書かれていない。実は、この状況がいちばん多いかもしれません。その場合は、次の順番で進めるのが現実的です。
- フリーランス本人に確認する:「今後の改修のため、権利の扱いを書面で確認したい」と、前向きな理由とともに伝えます。多くの場合、協力的な回答が得られます
- 覚書や追加の契約書で残す:「著作権の譲渡」または「自社業務のための利用・改変・第三者への委託を認める」旨を、書面(電子契約でも可)で交わします
- 対価の話は誠実に:追加で費用が必要になることもあります。権利を明確にするための費用と考え、見積もりを相談しましょう
- 専門家に相談する:権利が争いになりそうな場合は、弁護士や公的な相談窓口に早めに確認してください
なお、2024年11月に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、業務委託をしたとき、発注事業者は報酬の額や支払期日などの取引条件を書面または電磁的方法で明示することが求められます。明示する項目に知的財産の扱いが含まれるかは公式ページでは確認できませんでしたが、権利の扱いを書面に残しておくことは、トラブル防止のためにも有効です。
📰 出典:公正取引委員会「フリーランス法」
やりがちな失敗パターン
- 「お金を払ったから全部うちのもの」と思い込む:権利は契約で決まります。思い込みのまま他社に渡すと、あとで指摘される可能性があります
- 「口約束でOKと言われた」だけで進める:担当者が変わったり、時間がたったりすると、記憶がずれます。必ず文章にして残しましょう
- ソースコードを受け取っていない:権利以前に、ソースコード(プログラムの元データ)が納品されていなければ、改修できません。納品物の範囲も確認してください
- 揉めてからあわてて聞く:連絡が取れるうちに、権利の扱いを確認しておくのがいちばん安全です
発注者がやることチェックリスト
- ☐ 契約書・発注書・見積書・メール・チャットから、「著作権」「利用」「成果物」に関する記載を探した
- ☐ 権利が「譲渡」か「利用許諾」か、どちらで書かれているか確認した
- ☐ 譲渡の場合、「著作権法第27条・第28条の権利を含む」旨が書かれているか確認した
- ☐ 著作者人格権を行使しない旨の記載があるか確認した
- ☐ 納品物に含まれる共通部品やオープンソースの一覧をもらった
- ☐ ソースコードと必要な資料(設計書、環境構築の手順など)を受け取っているか確認した
- ☐ 代金の支払い状況と、権利が移る時期の記載を確認した
- ☐ 記載がない場合は、書面(覚書)で権利の扱いを残す段取りを決めた
フリーランス・開発会社への質問例
打ち合わせやメールで、そのまま使える質問です。相手を責める形ではなく、「今後も安心して使い続けるための確認」として伝えるのがコツです。
- 「今後の改修や保守を見据えて、このシステムの著作権の扱いを書面で整理させてください。現在の契約ではどうなっていますか?」
- 「著作権を譲渡していただく場合、改変する権利(著作権法第27条・第28条)と著作者人格権の不行使も含められますか?」
- 「納品物のうち、他案件でも使われている共通部品やオープンソースはどれですか? 利用条件の一覧をいただけますか?」
- 「別の会社に保守や改修を引き継ぐとき、ソースコードを見せても問題ありませんか? 条件があれば教えてください」
- 「権利の扱いを明確にするために、追加で必要な費用や手続きはありますか?」
まとめ:著作権は契約で決まる。分からなければ、いま書面にしておく
フリーランスに頼んだ開発の著作権について、押さえておきたい点を整理します。
- プログラムの著作権は、一般的には作った人に生まれ、支払いだけでは自動的に発注者へ移らない
- 発注者が知りたいのは、権利の持ち主より「自社で使い続け、改修し、他社へ引き継げるか」。契約の文言しだいで可能なことも多い
- 確認するのは、①契約・やり取りの記載、②譲渡か利用許諾か、③著作者人格権の扱い、④本人以外の権利、⑤支払いと権利移転の時期
- 書かれていなければ、フリーランスに相談して覚書で残す。争いになりそうなら専門家へ
システムは、納品して終わりではなく、そのあと何年も使い続けるものです。権利の扱いを今のうちに書面にしておくことは、将来の改修や引き継ぎの選択肢を守ることにつながります。まずは、手元の契約書とチャットを見直すところから始めてみてください。
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