納品されたシステムを使い始めたら、思っていた動きと違う箇所が見つかった。開発会社に伝えたいけれど、仕様書を見返しても、その動きについては何も書かれていない。「これは不具合として直してもらえるのか、それとも追加の費用がかかるのか」と、連絡する前から気が重くなる場面です。
「納品後に見つかった不具合の修正が、無償か有償かで揉めそう。仕様書に書いていない場合は、どう決まるのでしょうか」
先に結論をお伝えします。仕様書に書いていないからといって、有償と決まるわけではありません。無償になるかどうかは、「契約の内容に合っているか」で判断されます。契約の内容は、仕様書だけでなく、見積書・要件定義書・打ち合わせの記録・システムの目的も含めて考えるのが一般的です。
この記事では、仕様書に書かれていない不具合を、無償・有償のどちらで話し合うことになりやすいかを見分ける5つのポイントを、チェックリストと開発会社への質問例とあわせて解説します。契約や法律の話は一般的な考え方の紹介にとどめます。個別の判断は弁護士などの専門家に確認してください(執筆時点:2026年11月)。
なお、検収(=発注した内容どおりにできているか確かめて、受け取りを認める手続き)の期間が過ぎたあとの対応は、別の記事で詳しく扱っています。


仕様書に書いていないのに揉めやすい3つの理由
理由1:仕様書は「全部の動き」を書ききれない
仕様書(=作るものの内容を文章にした資料)には、画面や機能の主な動きが書かれています。ただ、入力ミスをしたときの表示、同時に大勢が使ったときの速さ、使えるブラウザの種類など、細かい動きまで全部書くことは現実的ではありません。そのため、書かれていない部分でトラブルが起きやすくなります。
理由2:発注者と開発会社で「当然」の範囲が違う
発注者は「こう動くのが当然」と考え、開発会社は「書いていないので対象外」と考える。どちらも悪意があるわけではなく、前提が違うだけです。この食い違いは、仕様が曖昧なまま進んだ案件で起きやすくなります。
理由3:直す側にも費用がかかる
不具合の修正には、原因の調査・修正・確認の作業が必要です。開発会社は、契約の範囲外の作業を無償で引き受けると赤字になりかねません。そのため「契約の範囲内かどうか」を慎重に確認するのは、自然な対応です。
無償か有償かを見分ける5つのポイント
1. 契約の内容は仕様書だけではない
請負契約(=完成したものに対して報酬を払う契約)では、納品物が契約の内容に合っていないとき、発注者は修正の請求などができる、というのが民法の基本的な考え方です。この責任は契約不適合責任(=納品されたものが契約の内容に合っていないときに、開発会社が負う責任。以前は瑕疵担保責任と呼ばれていた)といいます。
📰 出典:e-Gov法令検索「民法」
ここで大切なのは、「契約の内容」が仕様書の文字だけを指すとは限らない点です。次の資料も、何を約束したのかを示す手がかりになります。
- 見積書に載っている機能の一覧
- 要件定義書(=何を作るかを決めた資料)
- 打ち合わせの議事録やメールのやり取り
- システムの目的として共有されていた内容
2. 「バグ」か「仕様の解釈違い」か「追加要望」かに分ける
見つけた問題を、次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 種類 | 例 | 話し合いの方向性 |
|---|---|---|
| バグ(=プログラムの誤り) | 書いてあるとおりに押しても動かない、計算結果が間違っている | 無償で対応する対象になりやすい |
| 仕様の解釈違い | 「一覧を出力」の項目や並び順が想定と違う | 資料を突き合わせて話し合う |
| 追加要望 | 最初の相談になかった機能を足したい | 別の見積もりになりやすい |
真ん中の「解釈違い」が、最も揉めやすい部分です。ここは、次のポイント3以降で材料をそろえます。
3. 書かれていなくても「通常期待される動き」は対象になりやすい
仕様書に細かく書いていなくても、そのシステムの目的から見て「普通はこう動くはず」という基本的な動きがあります。たとえば、保存ボタンを押したのに保存されない、というようなものです。こうした基本の動きは、書いていなくても約束の範囲内と考えるのが一般的です。
一方で、「あったら便利」「他社のサービスではできている」という期待は、追加要望として扱われやすくなります。線引きに迷うときは、契約や資料のどこにその動きの手がかりがあるかで整理しましょう。
4. 気づいてすぐ、証拠が残る形で伝える
民法には、請負で種類や品質が契約に合わない場合、発注者がそれを知った時から一定期間内に通知する必要がある、という定めがあります(第637条など。契約書で別の期間を決めていることもあります)。のんびり構えていると、無償で対応してもらえる余地が狭まるおそれがあります。
連絡は、日付が残るメールなどで行い、次の内容を書きます。
- 気づいた日と、何をしたらどうなったか(画面のスクリーンショットがあるとよい)
- 契約書・仕様書・見積書の、関係しそうな記述
- いつまでに確認と回答がほしいか
「無償で直してください」と決めつけるのではなく、「契約の範囲内かどうか、一緒に確認させてください」という書き方のほうが、話が進みやすくなります。
5. 無償にならない場合の「有償の中身」を確認する
話し合いの結果、有償になることもあります。その場合も、見積もりの中身を確認しましょう。
- 調査費と修正費が分かれているか
- 原因が開発会社側にあった場合の扱い(調査費は無償にする、など)
- 修正の期間と、確認の手順
- 今後、似た問題が起きたときのルール
有償と言われたからといって、すぐに不当だと決めつける必要はありません。内訳が分かれば、納得して判断できます。
やりがちな失敗
- 電話や口頭だけで伝える:後から「聞いていない」になりやすくなります
- 最初から強い言い方で伝える:開発会社が身構えて、話し合いが長引きます
- 契約書を読まずに連絡する:期間や費用の取り決めを見落とします
- 「たぶん不具合」を放置する:気づいてから時間がたつほど、確認も難しくなります
発注者がやることチェックリスト
- ☐ 見つけた問題を、日付・手順・画面の写真つきで記録した
- ☐ 契約書の「契約不適合責任」と「保守」の条文を確認した
- ☐ 仕様書・見積書・要件定義書・議事録で、関係する記述を探した
- ☐ バグ・解釈違い・追加要望のどれに近いか、自分なりに分けた
- ☐ 開発会社へ、日付が残る形(メールなど)で連絡した
- ☐ 回答の期限を伝え、記録を取っている
- ☐ 判断に迷う点は、弁護士や専門家に相談する準備をした
開発会社への質問例
- 「この動きは、契約や仕様書のどの部分に当たると考えていますか?」
- 「不具合として対応いただける範囲と、追加の開発になる範囲を、理由と一緒に教えていただけますか?」
- 「有償になる場合、調査と修正の内訳を分けて見積もっていただけますか?」
- 「原因が分かった時点で、無償か有償かをもう一度ご相談させていただけますか?」
- 「今後、同じような判断が必要になったとき、あらかじめ決めておけるルールはありますか?」
まとめ:「仕様書にあるか」より「契約の内容に合っているか」で整理する
仕様書に書いていない不具合でも、無償になる可能性はあります。反対に、書いていない機能の要望は、追加の費用になることが多いのも事実です。
- 契約の内容は、仕様書だけでなく見積書や議事録なども含めて考える
- バグ・解釈違い・追加要望に分けて整理する
- 気づいたらすぐ、日付が残る形で伝える
- 有償の場合は、内訳を確認する
次回の発注では、仕様書に「エラー時の表示」「使える環境」など、揉めやすい部分を最初から書いておくことをおすすめします。まずは、手元の契約書と仕様書を見直すところから始めてみてください。
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