知り合いの紹介や求人サイトで見つけたフリーランスに、システム開発やホームページ制作を頼んだ。やり取りはチャットと口頭だけで、契約書も発注書も交わしていない。作業が進んでから「これで大丈夫だったのだろうか」と不安になる発注者の方は少なくありません。
「フリーランスとの契約書がなく、口頭とチャットだけで依頼していた。今からでも契約書を作れるのか…」
先に結論をお伝えします。契約書は、作業の途中でも納品後でも、今から作れます。まずは「今の合意」を文章に残すことから始めましょう。契約そのものは口頭でも成立しますが、金額・納期・著作権の扱いなどが書面やメッセージに残っていないと、後で食い違ったときに確認する材料がなくなります。
この記事では、契約書がないまま依頼を進めてしまった発注者が、今からできる整理の手順を、そのまま使えるチェックリストと質問例とあわせて解説します。なお、法律に関わる部分は一般的な考え方の紹介です。個別の判断が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
契約書がなくても契約は成立している?まず知っておきたい前提
「契約書がない=契約が無効」ではありません。民法上、契約は当事者の合意があれば成立するのが原則で、契約書の作成は成立の条件になっていません。口頭やチャットで「この内容でお願いします」「承知しました」と合意していれば、契約は成立していると考えられます。
では、なぜ契約書が大切なのでしょうか。理由は、合意の中身を後から確認できる形で残すためです。システム開発では、次のような点が「言った・言わない」になりがちです。
- 作るものの範囲(どこまでが今回の金額に含まれるか)
- 金額と支払いのタイミング(着手時・納品時・検収後など)
- 納期と、遅れたときの扱い
- 完成したプログラムやデザインの著作権の帰属(誰のものか)
- 納品後の不具合対応や保守の有無
特に著作権は注意が必要です。一般に、契約で取り決めなければ、作ったものの著作権は制作者側に残ると言われています。契約書がないと、自社で使い続けるための取り決めすら曖昧なままになりかねません。
フリーランス法で、発注者に求められていること
2024年11月1日から、いわゆる「フリーランス法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されています。従業員を使わずに業務を受ける個人や一人会社のフリーランスに仕事を発注する事業者は、業務を委託したら直ちに、取引条件を書面か電磁的方法(メールやSNSのメッセージなど)で明示することが求められます。口頭だけでは足りません。
公正取引委員会の特設サイトでは、明示すべき事項として、おおむね次のような内容が示されています。
| 明示する事項 | 具体例 |
|---|---|
| 発注者とフリーランスの名称 | 会社名と、フリーランスの屋号または氏名 |
| 業務を委託した日 | 依頼を確定させた日付 |
| 仕事の内容 | 作るもの・作業の範囲 |
| 納期と納品場所 | 納品日、納品方法(データ納品など) |
| 検査(検収)の完了日 | 検収をする場合のみ |
| 報酬の額 | 金額(税込・税抜の別も) |
| 報酬の支払期日 | 例:納品の翌月末払い |
📰 出典:公正取引委員会 フリーランス法特設サイト
つまり、チャットで取引条件を伝えていれば電磁的方法による明示にあたる場合もありますが、金額や納期、仕事の内容が一通りそろっていなければ不十分です。もし抜けている事項があるなら、今から補って明示するのが望ましいといえます。なお、この法律の対象になるかどうかや、違反にあたるかどうかは取引の実態によります。気になる場合は、公正取引委員会などの公式窓口や弁護士に確認してください。
関連して、フリーランスへの前払いと納品の関係を整理した記事もあわせてご覧ください。


今からできる、契約書の作り方・進め方 6ステップ
ここからは、実際に何をすればよいかを順番に整理します。相手を責めるのではなく、「お互いの認識をそろえるための作業」として進めるのがコツです。
ステップ1. 今までのやり取りを全部集めて保存する
チャット、メール、通話後のメモ、見積もりや請求書、ファイルの受け渡し履歴を一か所にまとめます。これが「今の合意」を確認する材料になります。チャットアプリは古い履歴が消えることがあるので、先にスクリーンショットやエクスポートで保存しておきましょう。
ステップ2. 「今の合意」を箇条書きにまとめる
集めた資料から、金額・範囲・納期・支払い・納品物などの現状を、A4で1枚程度に整理します。分からない点や食い違いそうな点は、空欄のまま「未確認」と書いて構いません。
ステップ3. 相手に「確認させてください」と伝える
いきなり契約書を送りつけるのではなく、「認識のズレを防ぐために、現在の条件を文章にまとめました。間違いがないか見ていただけますか」と伝えます。フリーランス側にとっても、条件が明確になることはメリットです。
ステップ4. ひな形を使って書面にする
条項をゼロから考える必要はありません。経済産業省・IPAが公開している「情報システム・モデル取引・契約書」のようなひな形を土台にすると、抜けを防げます。
📰 出典:IPA(情報処理推進機構)「情報システム・モデル取引・契約書」
フリーランスとの小規模な案件でも、最低限、次の項目は入れておきましょう。
- 仕事の内容と納品物
- 報酬額と支払期日
- 納期と検収の方法
- 著作権の帰属(譲渡するのか、利用許諾にとどめるのか)
- 秘密保持(取引先情報や個人情報の扱い)
- 契約不適合(納品後の不具合)への対応
- 途中で終了する場合の精算の考え方
ステップ5. すでに終わった分と、これからの分を分ける
すでに納品された分と、これから進める分を分けて書くと、整理しやすくなります。過去分は「実績の確認」、今後分は「ルールの取り決め」として記載します。過去にさかのぼって条件を変えようとすると揉めやすいため、過去分は現状の事実を確認するにとどめるのが無難です。
ステップ6. 双方で合意した記録を残す
署名・押印のほか、メールで「上記の内容で合意します」と返信をもらう形でも、記録として有効に使えます。大切なのは、合意した日付と内容が後から確認できることです。電子契約サービスを使う方法もあります。
やりがちな失敗
- 相手の承諾なく、一方的に条件を書き換えた契約書を送る:合意を取れていない内容は、トラブルのもとです。
- 金額が決まらないまま書面を作る:金額と支払期日は、必ず確定させてから記載します。
- 著作権の条項を後回しにする:納品後に「自社で改修できない」という事態になりかねません。
- チャットの履歴を整理せずに放置する:アプリの仕様で見られなくなることがあります。
- 「契約書は後でいい」と思い、さらに作業を進める:作業が進むほど、決め直しが難しくなります。
発注者がやることチェックリスト
- ☐ これまでのチャット・メール・見積書・請求書を一か所に保存した
- ☐ 現在の金額、納期、仕事の範囲、支払いタイミングを1枚に整理した
- ☐ 納品物と、その著作権・使用範囲をどうするか社内で決めた
- ☐ フリーランスに「認識のズレを防ぎたい」と伝え、確認を依頼した
- ☐ ひな形(モデル契約など)をもとに書面を作った
- ☐ 双方の合意を、署名またはメールの返信などで記録に残した
- ☐ 契約書や発注書の保管場所と担当者を決めた
- ☐ 判断に迷う点は、弁護士や公式窓口に確認した
フリーランス(開発会社)への質問例
そのまま使える一文を用意しました。
- 「これまでの条件を文章にまとめました。認識に違いがないか確認いただけますか」
- 「完成したプログラムやデザインの著作権は、どのように扱うのがよいでしょうか」
- 「納品後に不具合が見つかった場合の対応期間と範囲を、書面に入れたいのですが、いかがでしょうか」
- 「ソースコードや設計資料も、納品物に含めていただくことは可能ですか」
- 「今後の追加依頼は、都度、発注書やメールで条件を確認する形にしたいのですが、よろしいでしょうか」
まとめ
契約書がないまま依頼を進めてしまっても、今からできることはあります。ポイントは次の3つです。
- 契約は口頭でも成立するが、合意の内容を残さないと後で確認できない
- フリーランスへの発注では、取引条件を書面か電磁的方法で明示することが求められている
- 作り方は「やり取りを集める → 現状を整理 → 確認を依頼 → ひな形で書面化 → 合意を記録」の順
次の依頼からは、最初に発注書や契約書を交わす習慣にしておくと、同じ不安を繰り返さずに済みます。契約書の作り方や、フリーランスとの進め方で迷う場合は、早めに専門家へ相談してみてください。
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